大阪体育大学スポーツ科学部で、全国の大学でも珍しい硬式野球に特化した実技授業が開講されています。野球などのスポーツデータトラッキング機器メーカー「株式会社Rapsodo Japan (ラプソード社)(本社?横浜市)と連携し、野球の実技能力向上とともに、デジタルデータに関するスキルと論理的思考力の向上をめざしています。

授業では学生が投球し、ラプソードでデータを計測する
大学の授業ではベースボール型(ソフトボールなど)の授業は多いですが、硬式野球が実施されない理由は安全性への懸念。実技授業が豊富な大体大でも取り入れられていませんでした。
しかし、元大体大野球部出身で、留学先の米国でも野球指導経験がある徳山友教授(スポーツマーケティング)が赴任。大学カリキュラム委員会で検討し、「野球経験者が適切に授業展開すれば安全確保は可能」として、2022年度から経験者、未経験者を前後期の半期に分け、3年次配当として授業がスタートしました。

タブレット端末に表示される球速、回転数などを学生が投手役に伝える
授業は主に屋外野球場及び室内練習場で行われ、投球、捕球、打撃、走塁などの基本練習に加え、フリー打撃、ノック、ゲーム形式などの実践練習なども実施します。競技力の個人差が大きいため、最初に投打など個人のスキルを確かめ、授業終了までにどれだけ向上するかを個人課題としています。グループワークでは、指導者視点からスキル練習を展開。達成すべき目標に対し、どのような練習メニューを展開するかを議論させ、各グループが15分間ずつ、他の学生を指導します。徳山教授は「野球のスキル向上はもちろんだが、経験者もそうでない人も、スキルアップのための方法論やプロセスを様々なスポーツで学ぶことは、とても価値がある」と話しています。

徳山友教授
徳山教授は愛媛?新田高校を経て大体大に入学し、大学4年時はチームの主力選手の一人として、エースの上原浩治投手(元レッドソックス)とともにプレーしました。卒業後は企業キャリアを経て米国?ルイビル大学に留学し、博士号を取得。ルイビルでは野球の指導も経験しました(USA Baseball Coach “C” Certification 保持)。
ラプソードを授業で導入した背景の一つに、米国での経験があります。アメリカではプロや大学チームは当然のことながら、U-18世代、さらに小学生の指導においてもデータトラッキング機器が使用されていました。

打撃のデータを計測
大体大は2024年4月、体育学部がスポーツ科学部に生まれ変わりました。今年4月からデジタルスポーツ論が開講されるなど、スポーツの科学的な探究を重視します。徳山教授は「実技科目の多彩さは本学のカリキュラムの特徴だが、実技の中でデジタルデータを扱い、そこから得られる論理的思考力を育成することも重要だと思った」と語ります。ラプソード社に授業でのラプソード機器活用のサポートを申し入れ、2024年度から授業におけるラプソードの本格活用が始まりました。
ラプソードは多数のプロ野球球団で使用されています。スポーツデータトラッキング機器は数多くありますが、ラプソードは20?×15?ほどの箱型の機器とタブレット端末だけで使える手軽さが特徴といいます。
授業では、ラプソード社野球部門ビジネスマネージャーの花城健太さんも加わり、学生にデータの計測方法、活用の仕方について説明しています。学生は一人ずつフリー打撃や投球でデータを計測。打球の角度や速度、投球の速度やボールの回転数、回転軸の傾きなどをチェックします。

データの計測方法を説明する花城健太さん(中央)と徳山友教授(右)
計測に参加した学生の表情は、普段の授業とはまったく違っていたといいます。数値の向上を目指し何度もトライするなど、興味津々。「こんな手軽にデータが取れるのか」「自分のスキルを客観的に可視化できるのがすごい」などの声が上がりました。徳山教授は「学生がこのデータを目の当たりにした時の反応に、『これは活用価値あり』と感じた。データトラッキングの導入は学生の学習へのモチベーションアップにもつながる」と話しています。

座学の授業では、ラプソードで計測するデータについて学ぶ
徳山教授は昨年12月、授業に活かすため、情報科学関連の学科でラプソードを授業に取り入れている高校野球の強豪校を視察しました。その学校では、野球の経験がない生徒が野球部員のデータを分析し、その結果を野球部にフィードバックしていました。競技経験のない生徒の視点はデータがすべて。野球の「常識」や「感覚」をすべて除外して遠慮なくストレートに議論する姿が印象的だったといいます。
徳山教授は「視察では、データトラッキングが選手のスキル向上のための活用というよりも、教育として位置づけられ、その有用さを確認できた。諸外国ではスポーツアナリストはスポーツの未経験者が務めることも多い。授業を通じたデジタルデータを扱う学びを加速していきたい」と話しています。
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